歯科の開業資金は地域にもよりますが、最低でも4,000万円は必要です。資金を調達するには、日本政策金融公庫を利用するのがおすすめです。黒字経営をするためのコツなどをまとめました。
日本にはおよそ7万軒の歯科医院がありますが、歯科を開業する場合にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか?
歯科の開業資金と内訳について紹介します。さらに歯科の開業に適した物件の選び方や、歯科の経営を成功させるためのコツもまとめています。
もくじ
1. 歯科の開業資金
歯科を開業するにあたって、どのくらいの資金が必要なのかをチェックしておくのは大切なことです。戸建て開業にするかテナント開業にするかによっても費用は異なりますが、一般的に歯科の開業資金は4,000万〜1億円です。開業資金は初期費用とランニングに分けられます。
1-2. 初期費用と内訳
歯科医院の初期費用は3,000〜5,000万円です。初期費用には以下のものが含まれます。
・物件取得費
物件取得費は、戸建て開業にするかテナント開業にするかで費用は異なります。戸建て開業の場合は、土地の購入費と建設費が含まれるため費用も高額です。地域にもよりますが、最低でも3,000万円はかかるでしょう。
テナント開業の場合は、土地の購入費用などがないため戸建て開業よりも費用は安くなりますが、物件取得のために前家賃、保証金、礼金、仲介手数料などを支払います。地域にもよりますが、最低でも500万円はかかるでしょう。
・内装工事費
歯科医院を開業するには、物件の内装工事が必要です。内装工事には電気の配線、水道の配管、空調設備の設置などが含まれます。物件の広さにもよりますが、1,500万円ほどはかかります。
・医療機器の設置
歯科で必要となる医療機器には、歯科診療のチェアユニット、エアーコンプレッサー、バキュームシステム、光重合器、レントゲンに関する設備などがあります。チェアユニットについては物件の広さによって必要な台数が異なりますが、通常は2〜3台を購入します。医療機器の設置費用は最低でも1,200万円を見積もっておきましょう。
・広告宣伝費や開業時にそろえる消耗品の費用
厚生労働省の調査によると、全国にある歯科の数はおよそ7万軒で、コンビニエンスストアの5万5,000軒を大きく上回ります。そのため集客のためには、広告宣伝に力を入れなければなりません。広告宣伝にはチラシ、ホームページの開設、看板の設置などがあげられます。広告宣伝費は最低でも100万円を見積もっておきましょう。
また、歯科を開業する際には、制服、患者さん用のスリッパ、事務用品や診療で使用する消耗品が必要です。150〜200万円はそうした費用に充てるために用意しておきましょう。
1-3. ランニングコスト
歯科のランニングコストは開業する歯科医院の規模によっても異なりますが、毎月1,000万円はかかるでしょう。ランニングコストには家賃、人件費、医療機器のメンテナンス費用、消耗品、広告宣伝費などが含まれます。
人件費については雇用する人数によって費用が変わります。さらに歯科助手、歯科衛生士、歯科技工士など、雇用する職種によっても費用は異なります。一般的に歯科衛生士や歯科技工士については1人あたり毎月20〜25万円の人件費が、歯科助手は1人あたり15〜20万円の人件費がかかります。
歯科の診療報酬は、診察や治療を行ってから2カ月後に受け取れます。そのため、開業から2カ月間は診療報酬による収入を得ることはできません。さらに多くの歯科では、集客が安定するまでに数カ月の時間を要しています。そのため開業の際には数カ月分のランニングコストを用意しておきましょう。
2. 歯科に必要な開業資金の調達方法
歯科を開業するためにはまとまった資金が必要です。融資や借り入れによる方法で資金調達ができますが、まずは自己資金をためるようにしましょう。自己資金の比率は、開業資金の30〜50%が理想的です。
資金の調達方法はいくつかありますが、おすすめは日本政策金融公庫による融資です。日本政策金融公庫は金利が低く、返済期間を長期に設定できるというメリットがあるため、比較的低いリスクで開業できます。
日本政策金融公庫には、中小企業経営力強化資金という制度もあります。通常日本政策金融公庫では1,000万円が融資の限度額ですが、中小企業経営力強化資金を利用すると限度額がアップします。融資の申請をする際には、事業計画書や貯金通帳の提示などが必要です。事前に相談しながら資金計画を立てましょう。
3. 歯科に最適な物件の選び方
歯科のビジネスを成功させるためには、最適な物件を選ぶことが重要です。歯科のコンセプトについてはいつでも変更が可能ですが、物件に関しては一度選んでしまうと変更ができません。そのため物件選びで大切な3つのポイントをおさえておくことで、安定した集客や売り上げを期待できます。
3-1. 物件選びの3つのポイント
・人口密度の高い地域を選ぶ
歯科に最適な物件を選ぶ際には、人口密度の高い地域がおすすめです。人口密度が低い地域や、過疎化が進んでいる地域では安定した集客が望めないため、なるべく避けるようにしましょう。
・競合店の状況を確認する
人口密度の高い地域では複数の歯科医院が開業しています。別の歯科医院があると患者の取り合いになってしまい、安定した集客を見込めないという不安もありますが、実は競合店の経営状況によってはプラスにもなります。
・現地で確かめる
歯科に最適な物件を見つけるためには、現地へ行って確かめることが重要です。住宅が密集している地域でも時間帯によっては閑散としているところもありますし、通勤ルートとして利用されている通りなら、住宅が密集していなくても仕事帰りなどで利用してもらえる可能性があります。
テナントを借りて開業する場合は建物についてもチェックしましょう。テナントは1階の方が人目につきやすいという点で有利ですが、街路樹などがある通りでは夏になると葉が茂ってしまい見えにくくなるという可能性も考えられます。そのため、候補となる物件を実際に確かめて「患者さんに利用してもらえる」物件になるかを確認しましょう。
3-2. 契約時の注意点
歯科の開業に最適な物件が見つかったら不動産会社と賃貸契約の交渉を行います。立地のよい物件などは人気が高く、さまざまな業種からの賃貸契約の申し込みも考えられます。そのため契約の交渉をするときには、自分の歯科医院がテナントになることのメリットを提示しましょう。事業計画書を提示すれば不動産会社との信頼関係を築くことができ、交渉を有利に進められます。
また契約を交わす際には契約期間にも注意しましょう。ほとんどの賃貸物件は契約期間が定められていますが、契約の更新や解除の方法についてはトラブルを避けるためにもあらかじめ確認しておきましょう。物件によっては、解約の条件としてテナントの原状回復が記載されていることもあるため注意が必要です。
4. 歯科で黒字経営するコツ
歯科で黒字経営をするためのコツは、他の歯科医院との差別化を図ることです。日本には多くの歯科医院があるため、ほかの歯科医院にはない魅力やメリットをアピールすることは大切です。
小児歯科医院を開業する場合は、子どもたちが通院しやすいように遊具施設を用意したり、イベントを開催したりします。高齢者の多い地域に開業するなら、高血圧の人や心臓に持病を抱えている人のために、複数のモニターを設置して安全に治療が行えるようにするとよいでしょう。
別の方法としては、一般的な歯科治療だけでなく、インプラントなどの自由治療も行えることをアピールすることで差別化を図ることができます。患者さんのニーズを常に考えた営業をすれば安定した収益を得ることが可能でしょう。
5. 歯科の開業に成功した事例と年収
開業した歯科医の平均年収は1,200万円ですが、中には3億円の年収を稼いでいる人もいます。ある歯科医院は患者さんのキャンセル率を下げることで売り上げアップに成功しました。
キャンセル率を下げるためには、電話やメールによる定期的な連絡が重要ですが、それ以上に患者さん自身が「通院しなければいけない」という意識を持たせるようにしました。
来院した患者さんがスムーズに治療を受けられるようにするため、待ち時間を短縮するように予約管理を行い、診療中や治療中でも患者さんとのコミュニケーションを取るようにして丁寧に接することを心がけました。そうすることによって集客が安定して売り上げも大幅にアップしています。
6. 歯科の開業に必要な資格・許可
歯科の開業のためには3つの許可についての申請をします。
6-1. 開業届
開業届の手続きは最寄りの保健所で行います。申請の際には開業届やエックス線装置設置届を提出します。
6-2. 保険医療機関の申請
保健所での開業届の手続きをしたら、次に保険医療機関の申請をします。申請は管轄の厚生局で行います。
6-3. 歯科医師会への入会手続き
歯科の開業では、地元の歯科医師会への入会手続きも大切です。入会方法はそれぞれの地域で異なるため、まずは開業予定の地域の歯科医に相談しましょう。
7. まとめ
歯科の開業では物件の取得費用だけでなく、医療設備の購入費用や設置費用がかかります。歯科医院の規模によっても異なりますが、最低でも4,000万円以上の費用がかかるため、計画的に資金をためることが重要です。
歯科の開業には適切な物件を見つけることも重要です。人口密度を調べておくことも重要ですが、賃貸契約を交わす前には必ず現地の下調べを行うようにしましょう。