自動車を擦ったりぶつけてしまったことで出来る外装パーツの傷を修理する板金塗装の技術は、現代社会ではとても重要です。もともとはディーラーや保険会社からの下請けで仕事を行うイメージの強い業種でしたが、最近は独立して板金塗装業を始めるという人も増えました。そんな板金塗装業の開業資金や失敗しない経営方法についてお話をします。
下請け性の強い業種であった板金塗装業で独立開業するにはどれくらいの資金が必要なのでしょうか?
また、物件や立地はどこが適しているのか、黒字経営にするにはどんなコツを意識すればいいのかを解説していきます。
これから独立を考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
もくじ
1. 板金塗装業に必要な開業資金
自動車を扱うことが多いため、板金塗装業には広い敷地が必要な上に様々な機械や設備の準備に費用がかかります。その為、板金塗装業に必要な開業資金は1億3,000万円~1億5,000万円が必要になることが多いです。
ここではその内訳や開業後のランニングコストを解説します。
1-1. 初期費用と内訳
ここでは敷地面積150坪の土地に、120坪程の面積の工場を建てると仮定して、土地代は入れずに開業資金をシミュレーションしてみましょう。
工場建設費 :7,000万円
機械・設備費:6.100万円
開業前人件費:260万円
販促・広告費:400万円
その他雑費 :250万円
合 計 :1億4,010万円
土地の準備が出来ていない場合はここに更に土地代が入ってきます。工場の規模や設備によって差は出ますが、板金塗装業を始めるなら最低でも1億3,000万円ほどの開業資金が必要になります。
1-2. ランニングコスト
開業した後も工場の維持には費用がかかります。前述した規模の工場を維持する上で考えておきたいランニングコストは以下のようになります。
・場所代や賃借料
・人件費
・水道光熱費
・通信費
・設備維持費
・消耗品費
・減価償却費
・宣伝広告費
・雑費
板金塗装業の場合は水道光熱費・設備維持や購入費が非常に大きくなりやすいです。また、板金塗装には特別な技術が必要になり、腕の良い技術者を雇う場合は人件費も高額になってきます。その点を考慮してランニングコストは多めに見積もっておいたほうが安全です。
2. 板金塗装業の開業資金の調達方法
板金塗装業の開業には多くの資金が必要になるため、何らかの形で資金調達を行う必要が出てきます。その際に利用できるのは以下の機関や制度です。
・銀行や信用金庫
融資可能額:50万円~5,000万円以上
振込にかかる期間:1ヶ月ほど
・日本政策金融公庫
融資可能額:100万円~3,000万円
振込にかかる期間:1ヶ月~2ヶ月
・ベンチャーキャピタル
融資可能額:500万円~
振込にかかる期間:2ヶ月ほど
大きな額の融資となると、やはり銀行や信用金庫を頼ることになります。土地を持っていればそれを担保にしたり、創業・企業用のローンを使うという手段も検討出来ます。
ただし、金融機関によって審査や融資への積極性に差がある為、断られてしまうケースも少なくありません。信用金庫→地域銀行→ネットバンク→メガバンクの順で融資を受けやすいので参考にしてみてください。
3. 板金塗装業に最適な物件の選び方
無事に資金の調達が出来て、土地がまだ決まっていない場合や自己保有の土地がない場合は、物件探しが始まります。貸工場をメインに探すことになりますが、どのような物件が板金塗装業に向いているのでしょうか?
3つのポイントに絞って解説していきます。
3-1. 3つのポイント
板金塗装業の為の物件選びで押さえたいポイントは、残置されている設備・トラブル回避・車の出入りです。
・もともと板金塗装業をしていた物件
板金塗装業は何らかの理由で閉業する場合、用意した機械や設備の廃棄にも費用が掛かる為そのままになっている事が多いです。新規で板金塗装業を行う場合はそのような物件を見つけると、クレーンやリフトなど大型の機械をそのまま使えることがあります。
賃料は高めになりますが、ゼロから用意するよりも負担が軽いので、資金に余裕がない場合は狙ってみる価値があります。
・騒音トラブルが起きにくい環境
板金塗装業は大型の機械の作動音や車の音、修理の際の音など大きな音が継続して出る業種です。その為、近くに住宅が多い場合や学校・幼稚園・病院などがあるとトラブルが発生しやすいです。
板金塗装業の工場の作りでは完全な防音は不可能ですので、予め周辺環境を確認して問題になりにくい立地を選びましょう。
・大型車が出入りできる道路がある
車の修理を請け負うことが多い板金塗装業は、レッカー車など大型の車の出入りが多くなります。従業員も車やバイク通勤が多い業種なので、出来るだけ工場への出入りがスムーズにできる大きな道路がある物件を選びましょう。狭い道路しかないと事故も起きやすく、リスクを多く抱えてしまうことになります。
3-2. 契約時の注意点
貸工場を利用して板金塗装業を始める場合は、不動産会社との契約が必ず必要になります。その際に特に注意して確認したいのは以下の点です。
・貸工場は公正証書で契約書を作る
・残置されている設備について
・解約や更新時の条件
貸工場の場合は公正証書で契約書を作るのが一般的で、この場合の契約期間は短期の20年になります。賃料も大きく、設備や機械など高額なものを配置することになるので、公正証書での契約がなされているか確認してください。
また、残置されている機械や設備がある場合、その故障時の修理はほとんどが借主の自己負担で行うことになります。どれくらいの設備が壊れた状態で残っているのか、修理できるものなのかなどは事前に確認してください。場合によっては処分や修理に賃料以外に莫大な費用が掛かってしまうことがあります。
4. 板金塗装で黒字経営するコツ
小規模事業にあたる板金塗装業は同じ地区内に複数出来ることもあり、思いのほか競争率が高い業種です。差別化を図り、黒字経営に繋げるには最新設備の導入や腕の良い技術者の確保が重要になります。
いずれも多額の費用がかかる部分ですので、設備投資や人材確保には綿密な計画を立てたうえで安全策を取り進めていくのが経営を軌道に乗せるコツです。
また、利用者は仕上がりの美しさと安さに加え、スピーディーな対応も強く求めます。見積もりや問い合わせへの返答の速さ、作業ラインの合理化などを意識して、経営を合理化することで利用者の満足度を上げて信頼を得ていくことも重要です。
5. 板金塗装の開業に成功した事例と年収
実際に板金塗装業を開業し、成功した例と年収などを見てみましょう。必ずしもこの通りになるわけではないので、参考プランとしてご覧ください。
1日の依頼件数:平均3件
客単価:平均15万円
売上高:1億3,000万円
営業利益:6,700万円
こちらが初年度の経営状態で、爆発的な利益アップはありませんが実績を重ねるほどにじわじわと利益が増えていきました。板金塗装業は信頼を得て知名度が上がるほどに依頼が増えるので、長く誠実な対応をすることで利益を伸ばしやすくなります。
車を持たない家庭が増えているので、個人の利用に加えて下請けも行えば更に利益を伸ばせるでしょう。
6. 失敗しない板金塗装の開業・経営方法の種類
板金塗装業は個人で開業するほかにも、フランチャイズに加盟するという方法もあります。どちらにもメリット・デメリットがあり、それを理解することで失敗のリスクを減らして板金塗装業を始めることが出来ます。
6-1. フランチャイズ経営
板金塗装業のフランチャイズ経営は、すでに名前が知られている本部のブランド力を借りられることがとても大きいです。また初期費用を抑えたり、小さめの物件でも開業出来るというコンパクトな経営も可能です。
最初から依頼が来やすいことや資金力が不安な人でも始めやすいことがメリットですが、ロイヤリティを本部に支払う必要があります。
6-2. 個人経営
個人経営はすべて自分で考え、準備し、何の後ろ盾もない状態で始めるので資金力・経営力が重要です。知名度がない状態からのスタートなので、最初の利用者がなかなか来ない可能性もありますが、軌道に乗れば利益を上げやすいです。
7. 板金塗装の開業に必要な資格や許可
板金塗装業の開業には様々な資格や許可が必要になります。資格は従業員が持っていれば良いですが、許可は開業する際に必ず経営者が得ないといけないものです。
工場を建設する場所の自治体によって異なりますが、消防法・水質汚濁防止法・騒音規制法・悪臭防止法など様々な地方自治法が適用される可能性があり、それぞれの許可が必要になります。
工場を建設する場合は建築基準法もかかわってくるので、専門家の意見や役所への問い合わせはしっかり行ってください。
8. まとめ
設備や機械、技術者の確保など多くの面で経費がかかる板金塗装業の開業は競争率も高く、自動車を持たない家庭も増えていることから軌道に乗せるまでがなかなか大変な業種です。
しかし、車仲間の口コミで腕の良さや対応の速さが広まれば次々に利用者が増えたり、個人経営だからこその柔軟な対応も出来るという強みもあります。
フランチャイズで安定を狙うという道ももちろん良いでしょう。
どのような工場を目指すのか、資金面を考慮して規模はどれくらいにしたいのかをまずは検討し、板金塗装業の開業を考えてみてください。